リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あそこの病院、道路際の敷地内に、桜がずらって並んで植えられてるだろ」
「あー。そうですね。けっこう、県内では有名な桜の名所ですよね」
「らしいな。あと、歩道と車道の境にはハナミズキが植えられてるし」
「赤い花と白の花を咲かせる木ですか」 
「おう。花が咲いてる時期は、いつ行っても満席でな」
「確かに。あそこからなら、眺めがよさそうですもんね」
「今度行ってみるか? そろそろ、クリスマスだろ。テラスにツリーだのなんだの、これからいろいろ飾るんだとさ。ウチの店にも、クリスマス用の寄せ植えの注文、いくつか入ってな」
「土曜の手伝いって、それですか?」
「おう。お前も来いよ。見合いなんてやめとけって」
「だーかーらー。お見合いじゃありませんって」
「お前にその気はなくても、お前の家族はその気なんだろ」
「その気なのは母だけです。まあ、もしかしたら、姉もかもですけど」
「ひょっとしたら、父もかも、だろ」
「……かも」
「なあ。いっそのこと、俺、このままお前の家に乗り込もうか。娘さん、頂きますって」
「やめてくださいよ。もう、さらに面倒なことになりますから」
「面倒ってなんだよ」
「面倒は面倒です。もし、仮に、引き合わされた人たちの誰かとお付き合いしなさいなんて言ってきたら、ちゃんと断りますから」
「ホントだな」
「もうっ 信用してくださいよっ それに、休みの日に井上さんたちと鉢合わせなんて、ぜったいに御免ですよ。今日居たってことはですよ、土曜もいるかもしれないじゃないですか」

その名を口にした明子も耳にした牧野も、ともにげんなりとした顔になり、延々と続いていた会話をピタリと止めて、ため息を吐きこぼした。
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