リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あれは扱いが難しい花でさ。水の吸い上げが悪かったりするだけで、すぐに黒ずんじまったりしてさ……」
表情を和らげて説明を続ける牧野の姿に、明子の気持ちも軽くなり、弾んでいくような感覚を覚える一方で、少しだけ、そんな牧野が痛ましくなって胸が締め付けられた。
こうして話題をふれば止まることなく、次から次へと湧き出すように出てくる花の知識は、昨日今日などという短い時間で身に付いたものではないはずだ。長い時間をかけて、その知識が自分の血肉の一部になるまで取り込んで、今となってはそれは牧野孝平という人間を形成する土台にすらなっているに違いない。
この人は、本当に花屋の仕事が好きなんだ。
もう一度、改めて、牧野のそんな一面を知ることになって、美咲も、亜矢子も、牧野に好意を寄せる女性たちの誰もが知らない、自分だけが知っている牧野孝平が心の引き出しに増えていくようで、それが嬉しくて心が弾む。
けれど、と明子は思った。
そんなふうに楽しげに話す牧野を見るにつけ、本当は、牧野も家業を継いで、その花屋の仕事がしたかったのではないだろうかと、そう思えてならなかった。
実子ではないという負い目から、その胸にあったそんな思いを口にすることもなく、牧野は静かに封印したのではないのだろうか。
明子には、そんなふうに思えてならなかった。
‐牧野さん、本当は、花屋さんを継ぎたかったんじゃないですか?
そう尋ねてみようかと口を開きかけて、明子はその言葉を飲み込んだ。
それに触れてしまったら、決して触れまいと必至に目を背けている問題を、否応もなくまた意識してしまう。
牧野が、その思いを口にできない引け目を持つことになってしまった原因こそが、今、二人が必至になって目を背けている問題の根っこだ。
今はまだ触れたくなかった。
どう触れていいのか、明子にはまだ判らなかった。
だから、言葉を飲み込むしかなかった。
いつか……
それを尋ねることができるときがくるかもしれないけれど、今はその『いつか』ではない。
そう自分に言い聞かせて、言葉にしようとしていたその問いかけを明子は胸にしまった。
表情を和らげて説明を続ける牧野の姿に、明子の気持ちも軽くなり、弾んでいくような感覚を覚える一方で、少しだけ、そんな牧野が痛ましくなって胸が締め付けられた。
こうして話題をふれば止まることなく、次から次へと湧き出すように出てくる花の知識は、昨日今日などという短い時間で身に付いたものではないはずだ。長い時間をかけて、その知識が自分の血肉の一部になるまで取り込んで、今となってはそれは牧野孝平という人間を形成する土台にすらなっているに違いない。
この人は、本当に花屋の仕事が好きなんだ。
もう一度、改めて、牧野のそんな一面を知ることになって、美咲も、亜矢子も、牧野に好意を寄せる女性たちの誰もが知らない、自分だけが知っている牧野孝平が心の引き出しに増えていくようで、それが嬉しくて心が弾む。
けれど、と明子は思った。
そんなふうに楽しげに話す牧野を見るにつけ、本当は、牧野も家業を継いで、その花屋の仕事がしたかったのではないだろうかと、そう思えてならなかった。
実子ではないという負い目から、その胸にあったそんな思いを口にすることもなく、牧野は静かに封印したのではないのだろうか。
明子には、そんなふうに思えてならなかった。
‐牧野さん、本当は、花屋さんを継ぎたかったんじゃないですか?
そう尋ねてみようかと口を開きかけて、明子はその言葉を飲み込んだ。
それに触れてしまったら、決して触れまいと必至に目を背けている問題を、否応もなくまた意識してしまう。
牧野が、その思いを口にできない引け目を持つことになってしまった原因こそが、今、二人が必至になって目を背けている問題の根っこだ。
今はまだ触れたくなかった。
どう触れていいのか、明子にはまだ判らなかった。
だから、言葉を飲み込むしかなかった。
いつか……
それを尋ねることができるときがくるかもしれないけれど、今はその『いつか』ではない。
そう自分に言い聞かせて、言葉にしようとしていたその問いかけを明子は胸にしまった。