リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「……だから、仕入れたいときには、その日に合わせて注文しておかないと、市場で手に入れることできないんだ」
機嫌のいい声で喋り続けている牧野にあわせて、明子は楽しげな声でなるほどと相槌を返す。
「なるほど。それで特注なんですね」
「おう。そういう花って、けっこうあるんだ。で、そういうのに限って、値もそこそこに張るからさ。ホントに必要なときにしか注文できないんだよ」
「そんな花を頼んで、島野さん、また女の人に悪いことしようとしてます?」
困った人ですねと、クスクスと笑い交じりの軽い口調で島野の女癖を揶揄するような言葉を告げた明子は、けれど、その言葉に柔らかだったそれまでの表情を一瞬にして硬くした牧野を見て、頬に浮かばせていた笑みを消した。
(なんか、地雷、踏んじゃった?)
何が地雷だったのかと、明子にはまったく判らなかったが、黙り込んでしまった牧野に、明子は恐る恐る声を掛けた。
「牧野さん?」
不安げな明子の声に、牧野は詰めていた息を吐き出して、強張らせていた表情を崩し穏やかな顔で明子を見た。
「それ、オフレコな。誰にも言うなよ」
島野さんにも、絶対に聞くな。
静かで柔らかな口調だが有無を言わせない強さを秘めたその声に、明子はどう答えていいのか判らず、困ったような顔をするしかなかった。
「お前の前で、あの話しを持ち出しちまったのはこっちなんだけどさ。できたら忘れてくれ。勝手言って悪いとしか、言いようがないんだけどさ」
「はあ」
頷きながらも、なにがそんなに問題なのだろうと首を傾げている明子に、牧野は少しだけ、重い声で言葉を続けた。
「俺にも、お前にも、あるだろう」
胸の中で止まったまま、進まない時間。
だから、触れるなと、正面を見据えて淡々と続いた牧野の言葉に、明子は息をのんだ。
そのまま、二人で夜の暗闇の中に沈んでしまいそうな、そんな静けさが車内を覆い尽くす。
ややあって、目の前の信号が赤に変わった。
明子が静かに車を止めると、牧野はまたぽつりと、呟いた。
「あの人の胸の中にも、あるんだよ。そういう時間が」
だから触れないでやってくれと、もう一度、牧野は懇願するに小さな掠れた声で繰り返した。
信号が青に変わる直前、明子はこくりと一つしっかりと頷いて、静かな声で牧野に告げた。
「誰にも言いません。忘れます」
機嫌のいい声で喋り続けている牧野にあわせて、明子は楽しげな声でなるほどと相槌を返す。
「なるほど。それで特注なんですね」
「おう。そういう花って、けっこうあるんだ。で、そういうのに限って、値もそこそこに張るからさ。ホントに必要なときにしか注文できないんだよ」
「そんな花を頼んで、島野さん、また女の人に悪いことしようとしてます?」
困った人ですねと、クスクスと笑い交じりの軽い口調で島野の女癖を揶揄するような言葉を告げた明子は、けれど、その言葉に柔らかだったそれまでの表情を一瞬にして硬くした牧野を見て、頬に浮かばせていた笑みを消した。
(なんか、地雷、踏んじゃった?)
何が地雷だったのかと、明子にはまったく判らなかったが、黙り込んでしまった牧野に、明子は恐る恐る声を掛けた。
「牧野さん?」
不安げな明子の声に、牧野は詰めていた息を吐き出して、強張らせていた表情を崩し穏やかな顔で明子を見た。
「それ、オフレコな。誰にも言うなよ」
島野さんにも、絶対に聞くな。
静かで柔らかな口調だが有無を言わせない強さを秘めたその声に、明子はどう答えていいのか判らず、困ったような顔をするしかなかった。
「お前の前で、あの話しを持ち出しちまったのはこっちなんだけどさ。できたら忘れてくれ。勝手言って悪いとしか、言いようがないんだけどさ」
「はあ」
頷きながらも、なにがそんなに問題なのだろうと首を傾げている明子に、牧野は少しだけ、重い声で言葉を続けた。
「俺にも、お前にも、あるだろう」
胸の中で止まったまま、進まない時間。
だから、触れるなと、正面を見据えて淡々と続いた牧野の言葉に、明子は息をのんだ。
そのまま、二人で夜の暗闇の中に沈んでしまいそうな、そんな静けさが車内を覆い尽くす。
ややあって、目の前の信号が赤に変わった。
明子が静かに車を止めると、牧野はまたぽつりと、呟いた。
「あの人の胸の中にも、あるんだよ。そういう時間が」
だから触れないでやってくれと、もう一度、牧野は懇願するに小さな掠れた声で繰り返した。
信号が青に変わる直前、明子はこくりと一つしっかりと頷いて、静かな声で牧野に告げた。
「誰にも言いません。忘れます」