リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
なにか食っていくかと言いながらも、食欲魔人を豪語する牧野がつよく空腹を訴えなかったこともあり、けっきょく、どこにも寄らずに明子が暮らすアパートに着いてしまい、今夜のところは牧野とそのまま別れて明子は家に入った。

『なにか、食べていきますか?』

簡単にものしか作れませんけど?
車を降りながら明子が牧野にそう尋ねると、牧野はやや考え込んでから、静かに首を振った。

『ずっと、寝不足が続いてるからな。今日は早めに帰って寝るよ。客先に行っても頭がぼんやりして、ロクに働かねえや。松山さんに、牧野課長でもグダグダなときがあるんですねえって、笑われてきたよ』
『それは、ものすごい一大事です。牧野課長がワーッと言ってガーっと動いてくれないと、仕事が片付きません』

髪を掻き乱しながら力なく笑う牧野を見て、明子もクスクスと肩を揺らして笑い、それ以上はつよく引き留めることはせず「運転、気を付けてくださいね」と、そんな一言を添えて牧野を見送った。
きっと、自分もそうであるように、牧野も一人になって考えたいことがあるのだろう。
遠のく車影を見ながら、明子はそんなことを思った。


(なんだかなあ)
(いろいろありすぎの一日、だったわね)


部屋へと向かいながら、今日一日の出来事を思い返しすだけで、疲れがドっと噴き出してきた。
牧野との距離が縮まりだしたとたん、いろんなことが目まぐるしく動きだし変わろうとしている現実に、必死についていこうとがんばる心が、クタクタになってしまったようだった。


(胃袋、というか)
(食欲、というか)
(それも相変わらず、絶不調だし)


どうしちゃったのやら、私の体とやや顔を顰めて胃の辺りを摩りながら、明子は重い足取りで玄関を潜った。
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