リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『和彦さんの知り合いの方たちとお見合いをするのよ。ちゃんとしていかないと。だらしない恰好でなんか、ぜったいに行かないでちょうだいね。なんなら明日、お母さんが買いに行ってくるけど』
「あのね。服くらいあるし。それにお見合いじゃ」
『和彦さんに聞いたけど、みなさん、いいお仕事をしている人たちばかりじゃない。こんないいお話、そうそうないんだから、ちゃんとして行かないと』
「あのね」
『ワンピースみたいな感じがいいかしら。もう、年も年だから、控え目な感じがいいわよね』
「だから、バーベキューするのにね」
『髪はいつ切ったの? だらしなくぼっさり伸ばしているなら、明日にでも切って……』
明子の言葉など耳にも届いていない様子で、一方的に、自分の言いたいことを言いたいようにまくし立て続ける母親に、明子は諦めたように口を閉ざした。
(なんで、いつもこうなんだろう)
かみ合うことのない会話に、明子の気分はますます沈み、力なく肩を落とした。
疲労がいきなり五割増しにでもなったかのような量で明子に襲いかかり、体も心を疲弊させていく。
お腹の底に、ズシっと重い鉛でも打ち込まれたかのような、鈍い痛みも走り出した。
母の言葉はいつもどこかずれている。
そして、明子の心をささくれさせる。
それでも、大人になればこの母親のことも理解できるかもしれない。
そんなふうに思っていたときもあるけれど、大人になっても、やはり理解することができない人だった。
(違う。そうじゃないな)
理解できないと思っている自分に、明子は小さく首を振った。
(きっと、私の心も、壊れたままなんだ)
(あの夜から、ずっと)
(だから、判ろうとすることも)
(判ってもらおうとすることも)
(私自身が、諦めているんだ)
心の傷は、どうすれば癒せるのだろうと、電話の向こうで甲高い声を張り上げて喋り続けている声を聞き流しながら、明子はそんなことを考えた。
「あのね。服くらいあるし。それにお見合いじゃ」
『和彦さんに聞いたけど、みなさん、いいお仕事をしている人たちばかりじゃない。こんないいお話、そうそうないんだから、ちゃんとして行かないと』
「あのね」
『ワンピースみたいな感じがいいかしら。もう、年も年だから、控え目な感じがいいわよね』
「だから、バーベキューするのにね」
『髪はいつ切ったの? だらしなくぼっさり伸ばしているなら、明日にでも切って……』
明子の言葉など耳にも届いていない様子で、一方的に、自分の言いたいことを言いたいようにまくし立て続ける母親に、明子は諦めたように口を閉ざした。
(なんで、いつもこうなんだろう)
かみ合うことのない会話に、明子の気分はますます沈み、力なく肩を落とした。
疲労がいきなり五割増しにでもなったかのような量で明子に襲いかかり、体も心を疲弊させていく。
お腹の底に、ズシっと重い鉛でも打ち込まれたかのような、鈍い痛みも走り出した。
母の言葉はいつもどこかずれている。
そして、明子の心をささくれさせる。
それでも、大人になればこの母親のことも理解できるかもしれない。
そんなふうに思っていたときもあるけれど、大人になっても、やはり理解することができない人だった。
(違う。そうじゃないな)
理解できないと思っている自分に、明子は小さく首を振った。
(きっと、私の心も、壊れたままなんだ)
(あの夜から、ずっと)
(だから、判ろうとすることも)
(判ってもらおうとすることも)
(私自身が、諦めているんだ)
心の傷は、どうすれば癒せるのだろうと、電話の向こうで甲高い声を張り上げて喋り続けている声を聞き流しながら、明子はそんなことを考えた。