リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
社員情報の一本化するためのシステムを導入するに辺り、総務課と人事課、どちらかその主導権を握るか。
そんなことを、ずっと彼らは口論しているのだ。
自分の要求を最優先させるために、相手の要求の欠陥を、徹底的に突付きまわす。
そんなことを、延々と続けている。
おそらく、社員情報を各課で独自に持った経緯自体、各課を仕切る上の者たちの対立で、自分のところの情報はがっつり独占し、それが欲しいなら頭を下げて頼みに来いという、実に幼稚で馬鹿馬鹿しい意地の張り合いがあってのことではないかと、明子は勝手に推測した。
それが、かれこれ一時間ほど、彼らを観察していた明子の所感である。


(ということ、だよね?)


自分が到達した結論に誤りがないか。
せめて、沼田でもいいからそう問いかけて確認したいところなのだが、その沼田はずっと下を向いたまま、ノートに何かを書き綴っていた。


(なにしてんのよ、この子もっ)
(もう、しっかりしようよぉ)


足でも小突いて注意するかと思ったところで、沼田の手元のその細かい文字の一部分を、明子は読み取った。


(あれ?)
(この子……)
(もしかして……)


ふむふむと、明子が考え込んでいると、会議室のドアが開いた。
三名の女子社員が、新しいお茶を運んできた。
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