リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
おそらく、この会社の制服と思われるスカートの丈を、びっくりするほど短くしている、派手に髪を染めた女子社員が、二人のほうに近づいてきた。
失礼しますと、鼻にかかった甘い声でそう告げて、明子と沼田の手元にあった湯飲みを下げると、代わりにコーヒーが入ったカップを、ソーサーごと置いていった。

むわんと漂ってきた香水に、思わずくしゃみが出そうになるのを堪え、明子は十分ほど休憩を入れませんかと、打ち合わせに参加している面々に提案する。
そろそろニコチン切りで苛立ち始めていた者たちは、一もニもなく賛同し、まるで先を競うようにして、わらわらと部屋を出て言った。


「沼田くん。ノート見せてくれるかな?」

人の出入りが落ち着いて、二人きりになったのをきっかけに、明子は沼田にそう声をかけた。
突然、明子から声を掛けられて、沼田は肩をびくりと震わせた。
目を泳がせて、おどおどとした様子で躊躇っていた沼田は、明子に確認するように「これですか?」と聞き、隠すように手元に置いてあるノートを指差した。

「それ。見せてください」

淡々とした声でそう答え、小さく頷く明子に、渋々というよりは恐々という様子で、沼田はノートを差し出した。

今回の打ち合わせにあたり、新調したらしい大学ノートには、打ち合わせの記録が一回目から詳細に続けれていた。
小さく細いその字は、読み解くのにかなりの根気を必要としたが、二回目以降の内容にさっくりと目を通した明子は、思わず肩を落とすように息を吐いた。
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