リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「仕事の指示は的確だし、フォローもちゃんとしてくれるし、上司としては間違いなくいい上司だけどな、なんか、余裕も隙も全然なかった。仕事に入り込んじまうと、張りつめ感が半端なくて、そういうときのあいつには、俺でも声も掛け辛くなるときがあってな。仕事が早いから、俺たちもあのスピードに付いていくのに必至で、けっこう、ピリピリ感があったんだぞ、小杉が入るまで」
「ピリピリ感、ですか」

ふうんと頷く明子に、小林は笑う。

「小杉と、ポンポンとあれこれ言い合いしながら、楽しそうに仕事してるの見て、ホントはこういう人だったんだって、やっと他の連中も判ったらしくてな」

ふっと、小林は屈託のない笑みを浮かべて、明子を見つめた。

「川田ですら、ウチの課長って、案外茶目っ気のある人だったんですねえって、驚いてたんだぞ、お前とやいのやいのやり合って、やりこめられるとめちゃくちゃ悔しがってる牧野の見て。木村だって、小杉と話してる牧野の姿を見て、やっと本領発揮で話しかけられるようになったんだからな」
「木村くんに関しては、果たして、それでよかったのかどうかが、甚だ疑問なんですが」

茶化すようにそういう明子に、まあなと小林は笑う。
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