リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
入社三年目ともなれば、新人とはもう呼べないが、それでも今の木村では、まだできる作業にも限りがある。
ましてや、昨夜の仕事は時間のある仕事ではない。
おそらく、昨夜、木村ができた仕事と言えば、牧野や松山の指示されての、ほぼ雑用に近いようなことばかりだっただろう。
そうしながら、邪魔にならない程度に、あちらこちらで笑いを振りまき、みなにガス抜きさせて、空気がどんよりと淀まないように、循環させていたに違いない。
そんな姿が、容易に想像できた。
そして、その木村が、いい具合で、牧野もガス抜きさせていたのだろう。
眠っていた牧野のその顔は、確かに、疲れ果てていた顔だったけれど、側に近づいただけで判るような、煙草の匂いはしなかった。
(よし。月曜日には、秘蔵のチョコレートを、おやつに出してあげよう)
木村の顔を思い浮かべながら、確かあのチョコレートは、そろそろ店頭に並ぶはずだと明子はカレンダーを眺めた。
明子の家から歩いていける場所にある、小さなチョコレート専門店のオランジェットが、木村は事の外、気に入っているらしい。
それは、秋の終わりから春先にかけて売られているものだった。
春先に、明子がおやつにと分けてあげたそれを食べて以来、ときおり「また、あのオレンジのチョコが欲しいです」と、木村は遠慮の欠片もなく餌を強請る子犬の顔で手を合わせる。
だから、寒くなったら買ってきてあげるわと約束していた。
お気に入りのアレを、ご褒美に食べさせてあげるわよと、主のいない隣の席に呟いた。
ましてや、昨夜の仕事は時間のある仕事ではない。
おそらく、昨夜、木村ができた仕事と言えば、牧野や松山の指示されての、ほぼ雑用に近いようなことばかりだっただろう。
そうしながら、邪魔にならない程度に、あちらこちらで笑いを振りまき、みなにガス抜きさせて、空気がどんよりと淀まないように、循環させていたに違いない。
そんな姿が、容易に想像できた。
そして、その木村が、いい具合で、牧野もガス抜きさせていたのだろう。
眠っていた牧野のその顔は、確かに、疲れ果てていた顔だったけれど、側に近づいただけで判るような、煙草の匂いはしなかった。
(よし。月曜日には、秘蔵のチョコレートを、おやつに出してあげよう)
木村の顔を思い浮かべながら、確かあのチョコレートは、そろそろ店頭に並ぶはずだと明子はカレンダーを眺めた。
明子の家から歩いていける場所にある、小さなチョコレート専門店のオランジェットが、木村は事の外、気に入っているらしい。
それは、秋の終わりから春先にかけて売られているものだった。
春先に、明子がおやつにと分けてあげたそれを食べて以来、ときおり「また、あのオレンジのチョコが欲しいです」と、木村は遠慮の欠片もなく餌を強請る子犬の顔で手を合わせる。
だから、寒くなったら買ってきてあげるわと約束していた。
お気に入りのアレを、ご褒美に食べさせてあげるわよと、主のいない隣の席に呟いた。