リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
煮詰まったときの牧野は、たった一晩で、数箱分の煙草を簡単に消費してしまう、とんでもないヘビースモーカーへと変貌する。
煙草を全く吸わない小林は、そんなときの牧野を「歩く煙草人間」と言って、顔をしかめて嫌がった。
昨日と変わらないスーツ姿のままでも、鼻につくようなきつい煙草の匂いがなかったということは、徹夜を強いられた状況でも、精神的にはさほど追い詰められずに仕事をしていられたということだ。
朝まで元気だったいう木村の存在が、適度に牧野を怒らせ笑わせ、牧野が必要以上に煮詰まらないようにさせていたに違いないと、明子は思った。
社内での喫煙は偶数階に作られた喫煙室に限られているので、牧野がここで煙草を吸うことはない。
けれども、そのために喫煙室に向かう回数が増えているときの牧野には、少しばかり注意が必要だ。
声をかける。
コーヒーを淹れてくる。
怒らせる。
笑わせる。
普段の牧野ならタイミングなどはかる必要もないが、煮詰まっているときの牧野は、注意深く観察していないと、そのタイミングを逃してしまう。
長い付き合いなので、顔色だけで察してくれると、牧野はそう美咲に告げたけれど、それが努力の賜物だってことを、ちゃんと判ってくれているのかなと、明子はおにぎりを頬張りながら、少しだけ拗ねたように唇を尖らせた。
(いや、ぜったい気づいてないわね。俺様牧野様だもの)
瞼に浮かんだ、ふんぞり返っている忌々しい顔に向かいべーっと舌を出した明子の耳に、騒がしい話し声が聞こえてきた。
煙草を全く吸わない小林は、そんなときの牧野を「歩く煙草人間」と言って、顔をしかめて嫌がった。
昨日と変わらないスーツ姿のままでも、鼻につくようなきつい煙草の匂いがなかったということは、徹夜を強いられた状況でも、精神的にはさほど追い詰められずに仕事をしていられたということだ。
朝まで元気だったいう木村の存在が、適度に牧野を怒らせ笑わせ、牧野が必要以上に煮詰まらないようにさせていたに違いないと、明子は思った。
社内での喫煙は偶数階に作られた喫煙室に限られているので、牧野がここで煙草を吸うことはない。
けれども、そのために喫煙室に向かう回数が増えているときの牧野には、少しばかり注意が必要だ。
声をかける。
コーヒーを淹れてくる。
怒らせる。
笑わせる。
普段の牧野ならタイミングなどはかる必要もないが、煮詰まっているときの牧野は、注意深く観察していないと、そのタイミングを逃してしまう。
長い付き合いなので、顔色だけで察してくれると、牧野はそう美咲に告げたけれど、それが努力の賜物だってことを、ちゃんと判ってくれているのかなと、明子はおにぎりを頬張りながら、少しだけ拗ねたように唇を尖らせた。
(いや、ぜったい気づいてないわね。俺様牧野様だもの)
瞼に浮かんだ、ふんぞり返っている忌々しい顔に向かいべーっと舌を出した明子の耳に、騒がしい話し声が聞こえてきた。