リスタート ～最後の恋を始めよう～ 【前編】

「いやだわ。休みの日まで、仕事なんてしているの？」

信じられなーいと妙に甲高い声で言って、明子を笑っている者に便乗した別の者が「ホントよねえ」と粘着質な声で同意する。

「なんかねえ、すごーっく、さみしい人みたい」

美咲の敵でもとろうというのか、くすくすと笑い明子を揶揄するその声たちに、私以外にも働いている人はたくさんいるんだけどねえと、明子は心の中で呟いた。

「そろそろ、年末に向けての繁忙期になるから、今日も休日出勤している人は多いのよ。もちろん、牧野課長もね。課長はここ最近、日曜以外は休みなしよ。今の言葉、そのまま牧野課長に伝えておきましょうか？」

ため息交じりにそう言うと、そんな言葉が返ってくるなど思ってもいなかったのか、耳障りな笑い声はぴたりと止んで、それに代わって気まずそうな咳払いが聞こえてきた。
さすがに、伝えられてはマズいという判断くらいはできたらしい。


（取り巻き一号、二号）
（もう少し考えてから、モノを言いなさいって）
（というか、取り巻き一号、二号、なんて名前だったっけ？）


美咲を盛りたてるように並んでいるのであろう女子二人を顔を思い浮かべて、明子はそんなことをぼんやりと考えた。
彼女たちの名前すら、記憶していない自分に苦笑するしかなかった。


（しかし、休みの日に、用もないのに会社に来て、なにをしているの？）
（あんたたち？）


ふと、今更ながらに、そんな疑問を覚えていると、明子のことを鼻を鳴らして笑う低い声があった。