リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そうやって辿り着いた夕方のスーパーマーケットは、野菜のタイムセールの時間に突入したところだった。
今まで、この時間にこの店に来ることなどなかった明子は、その喧騒に目を見開いて、しばし立ち尽くしてしまった。

主婦層の女性陣で埋め尽くされた野菜売り場に、明子は一瞬怯んだけれど、いやいや負けてはいられないでしょうと意を決して、その喧噪の中に突入した。

安さにつられて、つい予定外の大根や人参などのずっしり感のある野菜まで買ってしまい、帰り道はさすがに明子も最短距離を選択した。
けれど、それでも、二の腕はパンパンに張ってしまった。


(さすがに、堪えたわ、これは
(間違いなく、明日、この二の腕、さっそくの筋肉痛だわ)
(自転車、買おうかなあ)
(あれだって、いい運動になるよね?)
(自転車屋さん、近くにあったかな?)
(ホームセンターとかでも、自転車、あったっけ?)


そんなことを考えながら、明子は料理を作り始める準備に取りかかる。

今夜の夕飯ではなく、明日の夕飯にする煮物をまずは作ってしまおうと、戦利品の大根を手に考えていた。


(だってさ、煮物は一晩、寝かせて置いておいたほうが、ぜったい、おいしいもん)


ふんふんと、楽しそうな明るい鼻歌が、きれいになった部屋に流れた。
料理を、こんなに楽しい気持ちでしているのは、久しぶりのことだった。
その要因の一つを、明子はむふふふと笑いながら、振り返り見た。


『料理上手な子って、いいよね』


冷蔵庫にマグネットで留められている、クリアファイルに入った切抜き記事。
本当に、本人がそんなことを言ったかどうかは判らないけれど、それでも、そんなコメント付きで、少しだけ首を傾げるようにして笑う関ちゃんを見たら、張り切って料理好きの女に戻ってやろうって気にもなるわよと、明子は気合いを入れた。


(いやー)
(なんですぐに、この記事を見なかったのかなー、あたし)
(今日まで、こんなかわいい関ちゃんに、気づかなかったとは……)
(なんたる不覚!)


発掘作業中に見つけたお宝に、いっそう背中を押された気分になって、スーパーマーケットから帰宅した明子は、久しぶりの台所仕事を楽しんだ。
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