リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
(よし)
(少し、遠回りしていこう)
(運動、運動)


そろそろ、夕暮れ時を迎えそうな時刻。
買い物にでた明子は、普段より長い距離を歩くことを想定して、本格的なウォーキングシューズを履いて、部屋を出た。
そのシューズは、大掃除で発掘したてのダイエットグッズの一つだ。

『脹脛や太腿を、引き締める効果があります』

そんな売り文句に釣られて、ついつい買ってしまったスニーカータイプの靴なのだが、デザイン的に、会社へと履いていくのも躊躇われ、かといって、休みの日は、家で食べたら寝るが今までの明子の基本形だったので、けっきょく、ロクに履くこともないまま、箱にきれいに仕舞われていたという一品だ。


(思い立ったら、吉日、だもんね)
(ふふん)
(今日からは、ガンガン、履くんだもんね)


月曜からなんて言っていると、またいつもと同じで、けっきょく、挫折コースを辿ってしまう。
でも、今回ばかりは挫けるわけにはいかなかった。


(だって)
(だって)
(だって)
(関ちゃんが)
(いや『文隆くん』が)
(いやいや『高杉兄弟』が)
(東京で、こんなあたしを、待っているんだもんね)
(えへへへへ)
(でもって)
(ぜったい)
(ぜったい)
(ぜったい)
(ぜぇーったい)
(あのスカートを履いて、行くんだもんね)
(うふふふふ)


もしも、誰かに頭の中を覗かれたら憤死しかねない、そんなまっピンクの妄想を、グルグルグルグルグルグルグルグルと、頭の中でエンドレスリピートさせながら、いつもよりほんの少しだけ遠回りして、明子は馴染みのスーパーマーケットを目指した。
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