リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「したかった話って、このことだったんですか?」

話が終わったなら、もう食べることにだけ専念しようと考えて、明子は牧野にそう確認した。


(そんな、どうなるか判らない先の話)
(ここでうだうだと、考えてもね)
(しょうがないし)


そう割り切ることにした。

目の前に並べられたら料理は、どれもこれも美味しそうだった。
昔から、君島たちに「妖怪、食いしん坊」「万年、腹ぺこ小僧」と呼ばれている牧野の食い道楽ぶりは、社内では広く知られている話だ。
その牧野が美味いと言う店なら、まず、ハズれはない。
時間的に、あまりがっつりは食べたくないけれど、せっかくの牧野の奢りだ。
積年の積もり積もった食べものの恨みを晴らすべく、遠慮なく食べまくってやれと、明子はそう開き直って、食事を楽しむことにした。

そんな明子をよそに、牧野はまだ何かあるような、そんな躊躇を見せた。


(まだ、なんか、話があるんだ)


もう勘弁してほしいと、明子はぐったりと項垂れる。

「話しがあるなら、さっさと全部してください。なんか、そういうの、牧野さんらしくないです」

人のことなど二の次で物事を進めていく人なのに、何かおかしいと、明子は勘ぐるように牧野を見た。


(なにを、言おうとしているの?)


頭をフル回転させて考えても、明子にはそれが見えなかった。


(顔つきを見る限りでは……)
(仕事の話、だとは思うけど)
(なにか、いつもの牧野さんと違うよね)


その顔を注意深く見つめていても、牧野の心中が全く判らなかった。
それは明子にとっても初めての経験で、戸惑うしかなかった。

「デカいプロジェクトの話、したよな」

明子の視線に促されたように、まだ躊躇の色は浮かべたままだが、それでも牧野は話を切り出した。
いつになく真剣なその声に、明子もまじめな面もちで深々と頷いた。
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