リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
昼休み、その悪事が発覚して。
すごい剣幕で明子には怒られたのだが、あの弁当が忘れられず、それからも幾度となく、弁当の盗み食いを繰り返して、明子をそのたび怒らせてきた。


(そうだ)
(あいつの作る飯が、なにより好きだったんだ、俺)


心が、恋に落ちるより先に。
胃袋が、明子の虜になっていた。
食いしん坊を自負する自分の、あまりにもらしいそのきっかけに、牧野は苦笑した。

そして、昨日、ついつい我慢しきれずに玉子焼きを勝手に摘んでしまい、盛大に明子を怒らせたことを思い出したが、好きなものは好きなんだからしょうがないなと、牧野は自分の所行を反省するどころから、大きく開き直って鼻歌を歌った。

酒もそこそこには強いほうだか、食うか呑むかと尋ねられたら、牧野は食べることを選ぶほうだった。


(あいつの飯なら、毎日飽きずに食えるな)
(間違いなく)


鼻歌を歌いながら、そんなことをいつまでも考えている自分が、牧野はだんだん可笑しくなって笑えてきた。
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