リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
去年からずっと、先輩格の社員たちが、彼女たちを注意して指導しているらしい。


-お化粧していてもいいけど、九時には席について、仕事をしなさい。


何度か、そんな注意を彼女たちにしているのだと明子が聞いたのは、梅雨のころだった。
けれど、そんな叱責など余計なお世話とでも言うかのように、彼女たちはその行いを窘める先輩たちを面白そうに眺めて笑い、その言葉に耳を貸そうとはしないのだと言う。
明子にそれを聞かせた先輩は、疲れたようなため息をこぼしていた。

明子が去年まで属していた部署の女子社員が使用しているロッカールームは、別の階にあった。
その上、たいてい、朝は八時を少し過ぎたころには出社して、自分の机をきれいに拭き掃除してから、お茶を飲んだり、インターネットでニュース記事を眺めているのが、始業時間前の明子の日課だった。
だから、システム部に異動してきたあとも、しばらくは、美咲たちのこの状況を明子は知らずにいた。
今日のように、電車の遅延でギリギリの出社になったある日に、この事態を明子も知り驚いた。


-困っているのよね、あれ


明子より二つ上の先輩から美咲の素性を聞かされ、美咲の存在が彼女たちを増長させているのだと愚痴交じりに聞かされた。
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