リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「先週のプレゼンでの提案を聞いて、現行システムを改修するより、この際、思い切って総務の業務システムも、全てウチのパッケーシソフトに切り替える方向で、向こうさんも検討し始めてくれたらしい」

よくその気にさせたもんだなと、君島は感心したように明子を見た。

「今までにも、何度か、それは提案してきたんだが、なかなか、動いてくれなくてな」
「それは、黄門さまの印籠が効いたんじゃ」

まるで、その手に印籠を持っているかのようなポーズを取る明子に、君島はくつくつと肩を揺らして笑い、牧野は呆れ混じりで苦笑した。

「それは、俺も持ってるはずなんだがな。効かなかったぞ」
「あれれ? なんででしょ?」
「少なくとも、印籠如きで動いた訳じゃねえってことだ」

判った、バカ。
牧野は下から見上げるようにして明子を見て、そう言う。


(もう。すぐ、バカって言うんだからっ)
(バカバカ)


ぷんとむくれる明子に、君島は痴話喧嘩はあとでやれと言い、また野木に話しかけた。

「やっと、その気になってくれたからな。ここで一気に決めてきてくれ」
「それは、はい。頑張りますが」

君島の言葉に、珍しく野木が弱気な表情になった。

「総務の業務内容っていうものが、じつはよく判っていません」

野木が口にしたの不安に、君島も判っているというように頷いた。
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