リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「お前さんも、あとは、飲みに行ったときな」
「えー。ご飯って聞いたんですけど」
「俺は飯は、酒に決まってるだろ」

豪快に笑う君島に、明子は「判りましたぁ」と軽い口調で答え、ポインセチアを窓辺のポトスと並べて置いた。
その赤に、目元がかすかに緩み、明子は指先で葉を突っついた。
席に戻りつつ、明子は牧野に尋ねた。

「あれ、そんなに寒さに強くないんですよね。会社に置いて、大丈夫なんですか?」
「え? あの赤いの、寒さに弱いんですか? この時期よく見るのに」

明子の言葉に、川田が驚いたような声を上げた。
その言葉に先に反応したのは、牧野だった。

「もともと、亜熱帯が原産の植物だからな。あれは品種改良されて、多少は寒さには強くなってるヤツだよ。ガーデンポインセチアって言ってな。でも、できたら外に出しっぱなしにはしないで、部屋に入れておいたほうがいいな。花が咲くこれからの時期なら、日が当たるとこな。今年は短日処理がうまくいって、いい具合で花芽がついたんだ」
「たん……?」
「処理?」

聞きなれない単語に、明子も川田も首を傾げるしかなかった。
そんな部長に、牧野はもう一度、同じ言葉を口にした。

「短日処理。ポインセチアは、九月頃から一ヶ月ちょいくらい、日に当てない時間を増やすんだ。その時期に光を浴びすぎちまうと、花芽が付かないし、葉もキレイな赤にならないんだ。家にゃ、そんなに早くは帰れないから、物は試しに西日で影になるところに置いてみたら、あんがい、うまくいったみたいなんだ」

きょとんとしている川田と明子に、牧野はとうとうと語り聞かせた。
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