リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
両手で持ちたくなるほどの大きなおにぎりは、最初に小さなおにぎり三個作ってそれを合体させるのだと、なにかの折りに牧野は木村に言っていた。
三種類の具材で作ったそれぞれのおにぎりを、最後に一まとめにするらしい。
そんな面倒なことをするなら、おにぎり三個を別々に持ってくればいいのにと、明子は牧野の説明を聞きながら思ったが、食べるときに面倒というのが牧野の言い分だった。

明子には、さっぱり判らない理屈だった。

けれど、どこになにが入っているのか、まったく判らないおにぎりを頬張るのは、一種の闇鍋ちっくな楽しみもある。
自分で作る気にはなれないが、作って貰えばこれはこれでアリかなと、牧野特製おにぎりを食べるときになると、いつもそう思ってしまう。

最初に出てきた具材は、醤油で和えたかつお節だった。


(ドーベルマンの皮を被った猫さんメ)
(ぜったい、かつお節は外さないわね)


昔、何度かこうやって食べさせられた牧野のおにぎりにも、必ずおかかが入っていた。
どうして、かつお節を醤油で和えただけなのに、こんなに美味しいのかなと、食べるたびに不思議だった。
七年、八年ぶりに食べた牧野のおにぎりには、あとはなにが入っているのかと考え出すと、それだけでなんとなく楽しくなってきて、どんどん明子の頬も緩んでいく。

「なんだ、一人か?」

背後からの突然の声は、牧野だった。
振り返ると、手には堂々の明子のランチバックと、自分の弁当箱。
そして、なぜか会社近くのコンビニエンスストアの袋もあった。


(た、足りなくて、買い足してきたの?!)
(ウソでしょう?!)
(どんな体してるんですかっ)
(牧野さんっ)


桁違いの大食らいだと言うことは知っていたけれども、あまりにも旺盛な牧野の食欲に、明子も目を剥くしかなかった。
牧野は珍しく、明子と同じテーブルに腰を下ろして、弁当を広げ出した。
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