リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「そんなに、食べるんですか?」

いくら、燃費がいいからってと、呆れ果てている明子に、牧野はコンビニエンスストアの袋を差し出した。

「やるよ」
「こんなのを買ってくるなら、私のお弁当を返してくださいよ」
「やだね」

これは俺が貰ったんだとそう言い張ると、牧野はぜったいに返すものかと、抱えるようにして食べ始めた。

「スープだけでも、返してくださいよ」
「買ってきたやつがあるだろう」

コンビニエンスストアの袋の中には、サラダとから揚げと、コンビニエンスストアの電子レンジで温めてきたらしい野菜スープが入っていた。

「こっちのスープあげますから、私のスープを返してくださいって」

むうっと口を尖らせて怒る明子に「仕方ねえな」と、牧野はスープの入った容器を明子に返した。

「なんのスープだ?」
「オニオンスーブです」
「やっぱ、返せ」
「返せって。これは私のですっ」

あげませんという明子に「返せっ」と、牧野は愚図る子どものように地団駄を踏んで抗議したが、明子は「知りませんよ」と、涼しい顔で無視した。
明子は変わらず外を向いたままでいるので、牧野も弁当を手に同じように外を見ながら食べ進める。


(すっごい、いいお天気)
(こんな部屋の中で、一日中お仕事なんて、もったいないなあ)


窓の向こうに広がる青空に、明子は目を細める。
外を歩いたら、少し汗ばみそうなくらいの陽射しは、ちょうど膝に当たり、暖かかった。
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