リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
かみなりが鳴り響く夜は。
嫌いだ。
一人でいると、自分を見失う。
消えない悪夢に飲み込まれる。






トラブルが発生した客先に小林が向かい、君島と二人で残った牧野は、君島の背中に寄りかかるようにしながら、ぼつりと尋ねた。

「俺、ずっとこうなんですかね?」

君島が、柔らかく微笑むような気配がした。

「淋しいからだよ。それを埋めてくれる人と、早く一緒になれよ」

むうっと、牧野は口を尖らせて拗ねた。

「モタモタしてると、また、誰かに持ってかれちまうぞ」

からかうような声に、牧野はさらに拗ねて、その背中に額をグリグリと押し付けた。
君島の広い背中から伝わってくるその温もりに、悪夢に囚われて強ばっていた気持ちが、ゆったりと寛いでいく。
とろりとした心地よさに、牧野の瞼が重くなっていく。

「おい。寝るなよ」

不穏な気配を感じ取ったらしい君島の声に、牧野は「眠い」と答え、意図的に寄りかかる背に体重をかけた。

「しばくぞ、おい」

邪険にする言葉とは裏腹に、君島の声は優しい。

「だって、あいつ。まだ、忘れてないし」

やなんですもん。
唐突な牧野の言葉に、君島は一瞬眉を寄せ、すぐに察したように苦笑した。
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