リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「上の人は、育児休暇を取ってから考えたらどうだって。そのころになれば、今と状況も変わるかもしれないしって。そう言ってくれたんだけどね。年齢も年齢だし。実はね、去年、早期流産してね。だから、今度は大事をとろうかなって」

初めて聞く話に、明子は驚いたまま「そうだったんですね」と呟いた。

「復職したらしたで、朝早くから夜遅くまで、保育園や学童に子どもを預かってもらわなきゃならないでしょ。お金、けっこう、かかるのよね。子どもが増えれば、その分、子ども絡みの行事も増えてくるし。働くとしたら、上の子が学校に行っている時間だけにしようかなって。なんかね、子どもが子どもでいてくれる間くらい、一緒にいる時間はちゃんと持ちたいなって、最近、そんなことも思ったりもしてね」
「そう、ですか。寂しくなりますけど、おめでとうございます」
「ありがとう。そうしたら、小杉さんもいよいよ、システム部の女子社員トップテン入りよ」
「きゃー。小杉もいよいよ、トップテンですか」
「そうよ。ああいう女の子たちとも、上手に付き合っていくこと覚えて、ちゃんと使っていかないとね」
「肝に銘じます」
「ふふふ。これでもね、いろいろと悩んでいたのよ。なかなか、二人目ができないから、二人目不妊かなあっとか」
「二人目、不妊?」
「あるのよ、そういうことも。一人目ができたからって安心しちゃダメよ。ストレスだの疲労だの、そういうもので、女の体は簡単に変わるんだから。いるのよ、なかなか二人目ができないって悩んでる人も」
「はあ」
「ふふふ。まだ他人事みたいな顔してわね」

きょとんとしている明子の顔を面白そうに覗き込んだ恵美は「さて、お仕事お仕事、総務に行かなきゃだわ」とそう言って、明子に手を振って歩き出した。


(なんだか、今日も、朝からいろんなことがてんこ盛り過ぎ)
(すでに、エネルギー不足かもだわ)


首をぐるりと回すと、ボキボキと音が鳴った。


年が明けたら……、
先輩が一人、会社からいなくなる。
木村は結婚して、一家の主となる。
野木と森口も、いずれ結婚するのだろう。
森口は仕事を続けるのだろうか。
四月になったら、大塚は異動する。


(春になったら……)
(私はどうしているだろう)


そんなことを、明子はぼんやりと考えた。
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