リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
赤木のいる法人団体は、小さな二階建てのテナントビルを丸ごと借りきって、一階部分を事務所として使っていた。
受付のようなものはない。
正面玄関の扉を開けると、ドアの上部に付けてあるベルが、チャランチャランと音を鳴らし、来訪者の存在が事務所内に伝わるようになっていた。
そのまま、廊下を二十数歩突き進むと、事務所の入り口だった。
中に向かい「こんにちは」とそう声を掛け、社名を告げた。

「いつもお世話になってます。失礼します」
「ああ。お疲れ様です。どうぞ、どうぞ」

入れ口に一番近い場所に座っている加藤安子(かとう やすこ)が、明子の顔を見てそう言って「所長、小杉さんですよー」と、奥に向かって声をかけた。

加藤は一番若い女性職員だが、年齢は明子よりはるかに上だ。
正確なところは判らないけれど、五十はとうに過ぎていると聞いた事がある。
奥と言っても、そんなに広い室内ではない。形がL字型になっているために、入り口から所長の大山茂(おおやま しげる)の姿は見えないので、加藤はいつもそうやって、大山に呼びかけていた。

「おー。小杉さん。いいところに来た。教えてください」

大山がこうやって手招きするときは、たいてい、パソコンのトラブルだ。
多分、今までにも何度も同じ事をやらかして、長谷部に知りませんよと、そうそっぽ向かれてしまっているトラブルだ。
やれやれと思いつつ、明子は奥の大山の席に近づいた。
赤木の席を見ると、机の上はキレイに片付いていた。
いないのかしらと訝しく感じながら、大山に「どうしたんですか?」と尋ねると「棒がね」と、大山は困ったように眉を八の字にしていた。
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