リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「棒?」
「ほら。これ。いつも下にある棒が、右にきちゃったんだよ」

ほらほら。
大山はそう言って、明子にパソコンの画面を見てほしいと促す。
ノートパソコンのディスプレイを覗くと、タスクバーの位置が右縦になっていた。

「このまま使ったらどうですか。機能は一緒ですよ」
「えー。助けてよ。長谷部くんと同じこと、言わないでよ」

ホントに困っているんだと訴える大山に「困っているんじゃ、仕方がないですねえ」と笑いながら、明子はマウスを使い、大山曰くの「棒」を、横に戻す方法を教えた。

「こうやればいいんですよ」
「おー。戻った。戻った。あとね、絵がどっかいっちゃったんだよ」
「アイコンですか?」
「そう。それ。昨日ここにあったやつがね、ないんだよ」
「それをクリックすると、なにが動くんですか?」

クスリマスイベントの案内状だよ。書きかけなんだよ。
さらりとそう言われ、作成途中の文書まで、デスクトップに貼り付けるの止めて欲しいなあと思いつつ、それらしきタイトルを見つけた明子は、ここにありますよと指差した。
大山のノートパソコンのデスクトップはアイコンだらけだった。

「アイコンの整理、しちゃったんじゃないですか? 名前の順でキレイに並んでるじゃないですか」
「変なことしてないんだけどなあ。マウス、新しいやつにしたから、カチャカチャって、ずっと動かしてただけなんだよ」

ほら。コードがないやつなんだよ。
新しいマウスを自慢する大山に、いや、ですからねと、明子は苦笑するしかなかった。

「その、カシャカシャで、なにかしちゃったんですよ」

明子は力ない声でそう答え、何気なく、大山に赤木の在所を尋ねた。
大山が一瞬その顔を引き攣らせ、言葉を選ぶようにして明子に話し始めた。
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