リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「泣いて欲しいんじゃないのよ。考えて欲しいの。自分で考えて、仕事をして欲しいの。考えるのがいや? 言われたことしか、やりたくない? 少なくとも、この仕事はそんな甘ったれた考えじゃ、やっていけないわよ」

その言葉に、今にも泣き出しそうだった幸恵のその顔はがらりとその形相を変えて、明子を憎々しげに睨みつけている顔になった。
また、余計な口を挟んで邪魔をしないでと言っているようだった。

「私、小杉さんみたいな仕事しかないような、そんな人になりたくないし」
「なれるわけないだろ」

それまで、なにも言わずに仕事をしていた沼田が、幸恵の言葉を聞き笑った。

「例えば、これからの七年。原田がどう頑張っても、今のままじゃ、どうやったって原田は、小杉さんのようにはなれないよ」
「なりたくないんです」

少し、甘えの混じったようなその声を聞いて、野木が耳を掻きながら顔をしかめる。
沼田は、ただ淡々と、言葉を繋いだ。

「だから、なれないから。もしなりたいって望んだとしても、原田が、小杉さんみたいな人になるのは、不可能だから。そんな心配することないよ」

幸恵に目を向けることすらなく、仕事を続けながらそう言う沼田に、幸恵は不思議そうな顔をする。
沼田がなにを言っているのか、幸恵には全く理解できないのだろう。
そんな幸恵の姿と、辛辣なことを淡々と言ってのける沼田を交互に眺めた野木は、隣でくつくつと肩を揺らし笑った。

「小杉主任のこと、仕事しかないって言ったけど、なら、原田には、なにがあるんだよ?」

仕事さえないじゃないか。
ようやく、幸恵を見た沼田のその目は、判らない、できないを繰り返す幸恵に、心底、呆れ返っているようだった。
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