リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「課長にまで、もういいって言われちゃって。どうするつもりなんだよ、これから」

沼田に見つめられながらそう尋ねられた幸恵は、もぞもぞとしながら甘えた声で答えた。

「こちらのお仕事、手伝わせてください」
「でも、できないんだろ? だから今、叱られてるんだろ、主任から」
「言ってくれれば」
「だからな。会社に入って三年にもなるのに、それでも言わなきゃなにもできねえヤツじゃ、仕事が出せねえんだよ」

押し問答になりそうな気配に、野木はうんざりしながら、幸恵の言葉を遮って延々と喋り続けた。

「原田は木村と同期だよな。小杉主任や牧野課長に、一から十まで言われなくたって、木村は自分で考えて、データを調べたりテストをしたりしてるだろ」
「木村くんは、男の人だし」
「仕事にそういう言い訳を持ち込むなよ。男ならできて当たり前。女にはできなくて当たり前。そんなルール、あるわけないだろ。原田も木村も、スタートは一緒だろ。なあ。年が明けて春になったら、原田も四年目の社員になるんだぞ。去年の沼田みたいに、一人で客先に行って、バグの対応したり、後輩を連れて客先に行ったり。そういうことをする立場になるんだぞ?」
「……」
「もう、先輩のあとにただ付いて行けばいいって、そんなわけにはいかないんだよ。今度は原田か前に立って、後輩たちを連れて行かなきゃならないんだって。原田、今のままでそういうことできるか?」

野木のそんな問いかけに、幸恵は途方に暮れているような顔でパチパチと瞬きを繰り返すだけで、何も答えない。
でも、その顔には、どうして自分がそんなことをしなければならないのか、それがまったく判らないという、そんな困惑がありありと浮かんでいた。
その顔に、野木は盛大に息を吐いた。
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