リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
上司である野木が手を焼いている部下なのだ。そんな子は明子とて手に余る。
そのうえ、幸恵と明子の間には、今朝のロッカールームで生じた溝がある。自分にもだが、おそらく幸恵にも、それを埋めようという気持ちなどないだろう。
牧野だって今朝のことは知っているはずなのに、どうして、自分のこの苛立ちを判ってくれないのかと、そんな腹立ちが収まらない。
あんなふうに、一方的に無理を押し付けられて始まる午後からのことを考えると、胃の辺りがシクシクと痛み出してくるようだった。


(なにをやらせればいいのよ、あの子に)
(なにか、できそうな仕事、作ってやんなきゃ)


そんなことを考え出したら、手が勝手に弁当を片付け始めていた。

「小杉」

明子の様子を横目で眺めていた小林が、静止の声を明子にかける。けれど、明子はガサコソと広げてある弁当を仕舞っていった。

「午後からの仕事、なにか作ってやんないと」
「まずは、飯を食えって」
「もう、食べたくないです。ごちそうさまでした」
「こーすーぎー」

小林が手を引いて明子を止める。カッカするなよと、やんわりとした口調で明子を窘めるが、怒らせた当の本人は、いったいなにを怒ってるんだという顔で明子を見ていた。

「なにが、そんなに気に入らねえんだよ?」

怒っている理由がさっぱり判らねえと、眉間に皺を寄せている牧野に、小林は苦笑しながら明子を宥め続ける。

「小杉。飯はちゃんと食え。まだ半分も食ってねえだろ」
「だから、食べたくないです。もう」

胃が痛いと呟いた声は小さく、牧野には聞き取れなかったようだった。
小林が宥めるように、座れよと明子の腕を引き、明子は仕方なさそうにもう一度腰を下ろすと、お茶だけを飲んだ。

「あ。なんか、おいしそうな匂いが」

あ。みんなでお揃い弁当だ。いいなあ。
会議室のドアが開き、匂いを嗅ぎ取った木村が、小鼻をヒクヒクさせながら、牧野と小林が食べている弁当を見て羨ましがった。
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