リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「こりゃ。徹夜のご褒美弁当だ」
「あー。豆腐屋さんですか。あれ? 主任も徹夜だったんですか?」

徹夜のご褒美かと言いながら、ふと気がついたように木村はそんなことを尋ねつつ、なぜか、入り口に立ったまま中に入ろうとしなかった。

「いや、小杉は朝から、また弁当を食われちまったんだよ。腹ペコな課長様に」

おどけた表情の小林の言葉に、木村は楽しげな笑い声をあげた。

「あはは。今日も食べられちゃったんですか。もう、二人分作っちゃったほうがいいんじゃないですか、それ」
「おー。そういう案もあるな。で、どしたんだ?」

いつまでも中に入らず、ドア越しに外の様子を気にしている木村に、小林が怪訝な顔をしてそう声をかけたと同時に、木村はまた外に出ていった。
その閉じかけているドアの隙間から「しつこいよ、いい加減にしろよ」と、木村が誰かを窘めているような声が聞こえ、牧野がすかさず席を立って外に出た。
同じように腰を上げた明子を、小林が「いいから。小杉はここにいろ」と、腕を引いて制した。

「どうせ。原田がまた、なにかごちゃごちゃやってんだろ。つうか。原田たちか?」
「たち?」

なぜ複数形なのだろうと首を傾げて、ああ、昼休みだからお仲間も一緒かと納得したように頷いた。

「飯、ホントにいいのか? 食っとかねえと、体もたねえぞ?」
「食欲がなくなりました。お腹は空いてるはずなんですけど、胃がシクシクして、受け付けません」
「あんまり考え込むなって」
「だって……。あんまりですよ」

小林と2人だけという気安さから、明子は口を尖らせて拗ねた。

「いつも。ああやって面倒なことだけ、一方的に押し付けて。笑ってるんですもん。原田さんって、野木主任の部下ですよ? その野木主任が持て余してるなら、私だって無理ですよ。よく知らないし、判らないし」
「お前で無理なら、多分、もう誰の手にも負えねえって」

笑い混じりで、小林が明子にそう言い聞かせた。
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