リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「まさか」

さすがに、明子もその発想には驚いた顔で、小林を見るしかなかった。
だが、小林はそんな視線などさらりと受け流し、淡々としゃべり続けた。

「行く気があったら来るだろ。少なくとも、お前が呼びに行った時点で、飛んでくるだろう。君島課長がすぐに来るように言っているって、原田には伝えたんだろ?」
「はい」
「なら、行く気なんてなかったんだろうよ」

バカくせえと腹立てながらそう吐き捨てる小林に、明子はまだ混乱気味の頭の中を整理するために確認していく。
恵美に名を呼ばれた二人は、課長が怒っていると言われたとたん、慌ててロッカールームを飛び出し上司のもとに飛んで行ったのに、幸恵はどれだけ言っても出ていこうとはしなかった。
どうして、上司が待っていると言っているのに、それを無視してまでそこを離れようとしなかったのか。
それが明子にはずっと謎だったが、小林の言葉を聞いてまさかと思いつつも、ようやく、その答えが見えたような気がした。

「えーと。客先に行きたくなくて、井上さんを理由にロッカールームに篭城していたと?」
「じゃねえの? 他に理由あるかよ、あの行動に。服装だって、客先にあんなんで行かれたらどうするよ?」
「それはそうですけど、どうして、そんなこと」
「木村が言っただろう。沼田とお前が万が一にもって考えて、焦ったんだろうよ。野々村の抜け駆けも気になったのかもしれねえけど。だから、客先に行かないで、沼田の隣に張り付いていようとしたんだろうよ」
「はあ?!」
< 735 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop