リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「二人目のお子さんが、生まれるんだそうです」
「へえ。そりゃ、めでたい」
「で、いろいろ考えて、辞めることにしたって」
「まあ。システム部はなあ。きついって言えば、きついかあ」
「かもですねえ。それに、みんながみんな、働くママに協力的というわけでもないですしね。具体的には聞きませんでしたけど、今までにもいろいろあったみたいですよ。やっぱり、残業とか、休日出勤とか、無理がきかないこともあるでしょうから」
「まあなあ。コソコソ、嫌味を言うようなやつもいただろうなあ。そっか、園田も退職か」
「じゃ、主任が見本になってあげればいいじゃないですか」

小林と明子のやりとりを目をくりくりさせて聞いていた木村が、名案だと言いたげな満足顔で頷く。そんな木村に、なんのことよと明子は首を傾げた。

「結婚して、仕事も続ける女性社員の見本」
「はい?!」

なにを言い出したのかと、明子は目を剥いて木村を見つめ、すぐにやってられないわと言いたげに、盛大なため息をこれでもかと言わんばかりに吐き出した。

「結婚以前に、その相手がいないのに。だから、あの子たちに、男もいない年増だの、行き遅れのおばさんだのと笑われているのよ、私」

ぷんぷんと怒るしぐさをみせながら、明子は食べ残した弁当を片付けて腰を上げた。
そのタイミングで、明子の携帯電話にメールが届く。

「あー。いいなあ。島野さん。お昼はお刺身定食みたいですよ。おいしそう。……午後から、お客様のところに入るみたいですよ」

ほら。
添付されてきた写真を小林に見せるように携帯電話を翳す明子に、小林は「あいつの昼飯なんぞに、俺は興味ねえ」と鼻で笑う。
木村と沼田が目を見開いて驚愕の表情で明子を見ていたが、明子はそれにも気づいてもいなかった。

「とりあえず、なにか仕事を渡して、原田さんの様子を見てみます」

気を取り直したように明子はそう言って、会議室を出た。
ドアを閉める寸前、木村が「なんで、メールなんて貰ってるんですかっ」と、誰かに訴えているような声が聞こえてきた。
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