リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
幸恵は、昼休みが終わってもなかなか戻らなかった。
頭を抱えため息を吐くしかなかった明子の前に、幸恵がその姿を見せたのは、午後一時を十五分ほど過ぎたころだった。


‐明日からは、時間になったら、ちゃんと仕事を始めてください。
‐来ない人をいつまでも待っていられません。


戻るなり明子に呼びつけられ、そんな注意を受けた幸恵は、返事もせずに口を小さくツンと尖らせて、面白くなさそうな顔でそっぽを向いたままだった。
時間に遅れたことにも、そのことで注意を受けていることにも、謝罪も反省もなかった。
無言のまま席に戻った幸恵は、拗ねたような口調で「小杉さんは、言い方がきついですよね」などど、隣の沼田に話しかけていたようだが、とうの沼田は相槌もせず仕事に没頭していた。
そんな幸恵に、知らず明子の口からまた重い息が零れた。

一緒にランチを取っていたときは、ちゃんとしていたのになあと、そのころの幸恵を思い返した明子は、それが思い込みであったことに、今になって気づいた。
確かに、外から戻ってきてから女子のロッカールームの隣にあるトイレで歯磨きをするところまでは一緒だったが、そのあとは、いつも幸恵はロッカールームに行ってしまっていた。
課が違うのであまり気にしたことはなかったけれど、春のころから、午後になっても姿を見ないことはあったことを思い出した。
幸恵が言っていた、うまくいっていたという言葉が、むくりと頭をもたげるように思い出された。

明子が異動してくるまでは、部内の女子はみな一緒にランチに出ていたらしい。
それが、この春から別れてしまった。
二つのグループに。
今なら判る。
そのきっかけとなったのは、間違いなく自分なのだろう。
牧野と同期の女子社員。
牧野が慕う君島や小林と親しい女子社員。
その存在を、美咲が嫌がり敬遠したのだろう。
今なら、それが判る。
小杉さんが引っ掻き回してと言ったのはそういうことかと、やっと幸恵のあの言葉に、理不尽なことと思いつつも明子は合点がいった。
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