リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「桁数だのデータ型だの、どれが必須入力かだの、入力チェックの内容だの、こんなこと、全部、私が調べなきゃいけないですか?」
「そうよ。それがあなたの仕事なんだもの。やってください」
「判らないところは、教えてくれるって」
「教えたでしょう。どうやって調べて、その調べた内容を項目表に書いてくださいって。教えたわよね?」
「そんなの、どうでもいいです。調べ方を教えて欲しいんじゃないんです。なんで判ってくれないんですか。ここに書くことを教えてほしいんです。この項目のデータ型はなんですか? 桁数はいくつですか? 必須入力なんですか? どんなチェックしてるんですか? これは、……」

傍らに立ち明子の頭の上から、延々と、やや早口でヒステリックなキンキン声を、幸恵は浴びせ続けた。
判らない、教えてくださいを繰り返しながら、ひとしきり、幸恵が言いたいことを言い終えたタイミングで「それを調べるのが、あなたの仕事です」と、明子は静かに言い聞かせた。

「自分で一つ一つ調べてください。そのために、お客様から現行システムをお借りしてきたんです。土建会社さんの現行システムには、ドキュメントが全くありません。でも、ウチのパッケージソフトに乗せかえるにしても、それがないことには正しい差分表も作れません。時間がかかってもいいから、調べてください」
「こんなこと、もう調べて」
「大雑把には調べてあるよ。だから、乗せかえられると判断してんですもの。でも各画面の項目一つ一つまで、きっちりと分析調査はしていないの。だから、調べてください」

現行システムを調べて、項目表を作成してください。
明子は、幸恵の目を見ながら、淡々とそう言い聞かせ続けた。

「どうやって調べてればいいのか。それは教えました。私が教えた調べ方では調べられないときは、聞きに来てください」

席に戻って。仕事をしてください。
あくまでも穏やかなその声に、幸恵は唇を噛み締めて、踵を返した。
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