リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「次の日はお休みでしょ。存分に、潰されてきなさい。トイレとはお友だちにはならないように、気をつけてね」

あははと笑いながらの明子の言葉に、木村はぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。
さほど酒に強くない木村に絡む、酔っ払いの冠がついた先輩たちを窘めてくれる唯一無二の存在に、木村はすがりつかんばかりに懇願した。

「助けてくださいよっ 僕を見捨てないでくださいよっ 主任ーっ」
「土曜がね、ちょっと朝が早いのよ」
「大丈夫です。土曜の朝までにはお開きになります」
「私に徹夜しろと?」
「いったい、なにがあるというんですか、土曜日に。この僕のピンチなんですよ?」

明子にしてみれば、だから、なにという話なのだが、この木村のピンチを見捨てなければならない用事なんてあってはいけませんというように、腰に手を当て明子に詰め寄る木村に、明子はいたずらっぽい表情で、むふふと笑いながら答えた。

「お見合いなのですよ。ふふん。驚いたか」

どうだー。
そう言いながら、いぇいとブイサインを作って木村に見せる明子に、木村はこれでもかと目を見開いた固まった。
部屋中が、ほんの一瞬静まり返ったようだった。

「おーい。木村くーん」

どうしたー。フリーズしてるよー。再起動してー。
ゆさゆさと、明子がその肩を揺さぶると、木村は「うわーっ、なんてことをっ」と、明子に対して喚き始めた。

「許しませんよっ ダメですっ 僕に断りもなく、なんてことを」
「はあ? なぜ、木村くんの許可が?」

そんな道理があったら堪らないわというように、その顔をしかめてみせる明子に、木村はきっぱりと言い放った。

「主任の旦那さんになるということは、僕のお兄さんになるということです。僕の許可が必要なんですっ」

当たり前じゃないですかと、当然のことのようにそんな主張をする木村に「調子にのるんじゃありません」と言い、明子はその頬をむぎゅうっと引っ張った。

「こんな弟、持った覚えは、あ、り、ま、せ、ん」

思いのほか伸びる木村の頬の皮を見て、「木村、すげー」と、そう感心する渡辺に笑い出した明子の耳に、牧野を呼ぶ笹原の声が届いた。
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