リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ホントに、お見合いなんですか?」
抓られた頬をさすりながら、少しまじめぶった声でそう尋ねてきた木村に「ウソウソ。違うわよ」と、明子は笑って種明かしをした。
「義理の兄が、テニス仲間とバーベキューをやるから来ないかって」
「もう。焦らせないでくださいよ。そんなのぜんぜん、お見合いなんかじゃないじゃないですか」
「母が勝手に、見合いと思い込んで騒いでいるのよ。三十代とか四十代あたりの独身男性が、何人かいるそうでね。紹介しようかなあと義兄がうっかり口を滑らせたら、お見合いお見合いって、母が騒ぎ出してね」
自分で言った言葉に、明子はため息をこぼす。
そして木村は、またしても騒ぎだした。
「やっぱり、ダメですっ そんな合コンみたいなバーベキュー。ぜったい行かせませんっ 土曜の朝まで、飲み会ですっ」
二次会参加は決定ですっ
怒る木村の声に紛れて、二度、三度と、牧野の名を呼ぶ笹原の声がした。
「合コンって……。ただのバーベキューです。姪っ子たちのお守りを頼まれてるんだもの。合コンなんてノリじゃないわよ。それにね、見合いの話なんて、母が毎月毎月うんざりするくらい、持ってくるもの。それだけで充分よ。それから逃げ回るだけでも大変なのに」
「牧野。お前はついに、目を開けながら寝るようになったか?」
思いがけず間近で聞こえてきた笹島の声に、明子は背後を振り返る。
牧野の傍らに立った笹原が、その頭をこつんと突付くようにして「ほれ。目を覚ませ」と、笑い混じりの声をかけていた。
「すいません」
笹原に小突かれ謝罪するその顔は、硬く強張り険しいものになっていた。
声にも温かさはなく、周りを凍りつかせるような冷たさを放っていた。
「車、回してきます。玄関で待っていてください」
笹原にそう告げると、牧野は十年以上愛用しているヌメ革のダレスバックを片手に立ち上がり歩き出した。
ダレスバックも手帳と同じ工房で作られたものだと、それを使い始めたばかりのころに牧野から聞かされた。
(アレも、いい色に育ったわねえ)
(そりゃ、成人病の話が自然にでるくらい、年もとるはずだわ)
牧野の抱えるそれを眺めながら、あらためて、牧野と出会ってから流れた月日の長さを明子は実感した。
抓られた頬をさすりながら、少しまじめぶった声でそう尋ねてきた木村に「ウソウソ。違うわよ」と、明子は笑って種明かしをした。
「義理の兄が、テニス仲間とバーベキューをやるから来ないかって」
「もう。焦らせないでくださいよ。そんなのぜんぜん、お見合いなんかじゃないじゃないですか」
「母が勝手に、見合いと思い込んで騒いでいるのよ。三十代とか四十代あたりの独身男性が、何人かいるそうでね。紹介しようかなあと義兄がうっかり口を滑らせたら、お見合いお見合いって、母が騒ぎ出してね」
自分で言った言葉に、明子はため息をこぼす。
そして木村は、またしても騒ぎだした。
「やっぱり、ダメですっ そんな合コンみたいなバーベキュー。ぜったい行かせませんっ 土曜の朝まで、飲み会ですっ」
二次会参加は決定ですっ
怒る木村の声に紛れて、二度、三度と、牧野の名を呼ぶ笹原の声がした。
「合コンって……。ただのバーベキューです。姪っ子たちのお守りを頼まれてるんだもの。合コンなんてノリじゃないわよ。それにね、見合いの話なんて、母が毎月毎月うんざりするくらい、持ってくるもの。それだけで充分よ。それから逃げ回るだけでも大変なのに」
「牧野。お前はついに、目を開けながら寝るようになったか?」
思いがけず間近で聞こえてきた笹島の声に、明子は背後を振り返る。
牧野の傍らに立った笹原が、その頭をこつんと突付くようにして「ほれ。目を覚ませ」と、笑い混じりの声をかけていた。
「すいません」
笹原に小突かれ謝罪するその顔は、硬く強張り険しいものになっていた。
声にも温かさはなく、周りを凍りつかせるような冷たさを放っていた。
「車、回してきます。玄関で待っていてください」
笹原にそう告げると、牧野は十年以上愛用しているヌメ革のダレスバックを片手に立ち上がり歩き出した。
ダレスバックも手帳と同じ工房で作られたものだと、それを使い始めたばかりのころに牧野から聞かされた。
(アレも、いい色に育ったわねえ)
(そりゃ、成人病の話が自然にでるくらい、年もとるはずだわ)
牧野の抱えるそれを眺めながら、あらためて、牧野と出会ってから流れた月日の長さを明子は実感した。