リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「小林係長」
「はい」
「もしかしたら、話が長引くかもしれません。戻らなかったときは、終礼、お願いします」
「判りました」

淡々と、用件だけを硬い声のまま伝える牧野に、小林も仕事の顔を作って淡々と答えるが、歩き出した牧野の背に一言、言葉をかける。

「車の運転。気をつけてくださいよ」

その言葉に、足を止めた牧野は、深呼吸するように息を大きく吸い込んで「大丈夫です」と、吐き出す息で答えた。

「いってらっしゃい」

いつものように、明子は出かける牧野と笹島に声をかける。
木村も、それに続けるように同じ言葉を口にした。
笹原からは「おう、行ってくる」と、いつものように快活な応えがあったが、牧野は無言のまま出て行った。
そんな牧野を、美咲の目がずっと追いかけていた。
その姿が、廊下の向こうに消えて見えなくなるまで、追っていた。
だが、その後ろ姿が見えなくなると、怒りも露わな顔で、美咲は明子を睨みつけてきた。


(なんか、まずかったかな?)


牧野の硬い表情に、見合いの話は失敗だったかも思いつつ、でもあんなふうに腹を立てられるのも納得いかないわと、思わず、むすぅっと膨れそうになる頬を堪えさせたのは、明子を困ったように睨んでいる小林の目に気づいたからだ。
バカめと、明子を窘めているその目に、不安の陰が広がっていく。

「そんなに見合いの話、くるのか?」
「母の周りに多いんですよ。そういう話を持ってきて、まとめたがるみたいな人が。まとめた縁談話を勲章みたいに自慢してくるんで、うんざりしてるんですよねえ」
「あー、いますよねえ。そういう世話焼きな人って」

俺の兄貴にも、そんな話をときどき、持ってきますよ。
川田が明子の言葉にうんうんと頷いて「そりゃ、大変ですね」と笑った。
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