リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「小杉の心配を、ずいぶんとしてくれているようだけどな、まずは、自分の心配しろ。今のままじゃ、直にお払い箱だぞ」
「余計なお世話よ」

香里が眉尻を吊り上げて、小林にそう言い返した。小林はそんな香里を鼻で笑う。

「だな。余計なお世話だったな。クビになったところで、親に小遣いを貰って暮らしてりゃいいんだもんな。無職になったところで、困ることもないよな。仕事もしないで遊び歩いていても、なにも言われないんだろ? クビになったところで、なにも言われないよな」

香里はばつが悪そうに、目を泳がせ黙り込んだ。
沙紀の顔色もやや青ざめ、不安げな表情になりながら「そんなこと、ないわよねえ」と、美咲に目を向けた。

「お嬢さんにすがっても、ムリなこともあるんだよ。なんで、それが判らないかねえ」
「そ、それならそれでいいわよ、別に」

飄々とした口ぶりで続けられていく小林の言葉に、香里はふんと鼻を鳴らしてそっぽ向く。
沙紀もうつむき加減で顔を背けた。
仕事なんていつまでもするつもりはないと、二人のその顔に書いてあった。
そんな二人を、小林はせせら笑う。

「結婚相手を見つけたら、会社なんてさっさと辞めるから、そんなことはどうでもいいって顔だな。毎日毎日、着飾ってあちこちふらふらして、見つかったのか。結婚してくれそうな金を持っている男は」
「そんなこと、あなたに」
「言っとくがな。会社にいて仕事もしないでフラフラしてるような女、ウチの会社にいるまともなヤツは、相手にしないぞ。お前らとつるんで遊んでくれてる男に、仕事のできる男はいるか?」

いないだろと嘲笑う小林に、香里と沙紀は悔しそうに唇を噛み締めて俯いた。

「なあ、野々村。江藤。それに原田。お前らもさ、いい加減、しっかりしろよ」

突然、名前を呼ばれた幸恵が驚いたように小林を見ていた。
小林は彼女たちの視線にも動じることなく、淡々と言葉を続けていく。

「結婚結婚って、そうやって騒いでいるのもいいけどな、結婚したら、残りの人生を好きなように遊んでいられるなんて思ってんじゃねえぞ。そんな甘ったれた考えでいると、痛い目を見るからな。結婚は、遊んで暮らしていくための手段じゃねえぞ。そんな浮ついた考えで結婚なんてしたら、すぐに現実に押し潰されるからな」

諭す小林に、けれど三人は顔を背けるだけで、なにも答えなかった。
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