リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
いつも、明子をからかい、惑わせ煽る意地悪なこの手は、今夜、明子にしがみつく様に縋りついてきた。


(大人だったり、子どもだったり)
(ホントに、忙しい人)


明子を抱きしめた牧野も。
明子が抱きしめた牧野も。
どちらも、牧野なのだ。
昔の明子は知ることがなかった、牧野だ。
自分が牧野よりも、もっともっと、大人だったら。
牧野はもっと早く、そんな姿を自分に見せてくれていたのだろうか。
明子から昔の話を聞いた君島と小林は、明子をしょうがないヤツだなと笑っていた。
明子が小さな子どものように、思えたのかもしれない。


(この人を、包んであげられるくらい)
(大きな人に、なれるかな)


牧野の右手を、明子は両手で包み込んだ。


(そばに、いますよ)
(ずっと、いますよ)


手を包み込みながら、明子は胸中で牧野にそう言い続けた。
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