リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
牧野の右手に力が入り、明子の左手を強く握った。
その動きに明子は顔を上げ牧野を見ると、牧野はうっすらと目を開けて笑っていた。
ようやくのお目覚めに、明子も笑いかけた。

「着きましたよ」

明子の言葉に、まだ幾分ぼんやりとした顔の牧野が、判っているというように小さく頷いた。

「悪い。寝ちまってたな」

掠れたその声が、妙に艶かしい。
明子の手を握る牧野の手に、また少し力がこもる。

「おかしいな。俺、こんなふうに寝ることなんて、滅多にないのにな」
「疲れてるんですよ。働きすぎです」

変だな、妙だなと不思議がる牧野に、明子はくすりと笑って「帰れますか」と、問いかけた。

「帰れないって言ったら、どうすんだよ」

明子を揶揄するように笑って、逆にそう問いかけてくる牧野に、明子は言葉を詰まられて、目を泳がせた。


(どうするって……)
(えー、と)


泊まっていくよう勧めるべきかと惑う明子をよそに、牧野は手を離して体を起こした。

「ぐっすり寝たから、楽になったよ」

ありがとな。
明子の動揺が伝わったかのように、そう言って笑った牧野は、助手席を下りて運転席に回ってきた。

「お前も、今日は疲れたろ。早く休めよ」

ドアを開けて明子に降りるよう促す牧野を、明子は心配がる。
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