リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
そんなことを思っていたところに、携帯電話が鳴った。
ブルブルという振動に、慌ててテーブルに置いてあるそれを手にした。
なんとなく、予感があった。
牧野からだと、とっさに思った。
ディスプレイに表示された予想通りのその名前に、慌てて口の中のものを咀嚼して、明子は電話に出た。
顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

「はい。小杉です」
『お。今日は留守電じゃないな』

電話の向こうの声は、そう言って嬉しそうに笑う。
そう言えば、最近は夜中の電話が多いけれど、全部留守電だったかもしれない。

『家、着いたから』
「はい。お疲れさまでした」
『ん。……なにしてんだ?』

その言葉に、目の前のご飯に目がいった。
食事をしていると言ったら、俺も食べたいなどと、この食いしん坊は騒ぐだろうかと、暢気にもそんなことを真剣に明子は考えてしまった。

『小杉?』

黙り込んでしまった明子を訝しがる声に、明子は笑いながらご飯を食べてますと答えを返した。

「まだ、夕飯を食べなくて、お腹が空いちゃって」

お昼の残りを卵とじにしてと説明しようとする明子の声を、牧野が止める。

『こんな時間まで、なにも食べてなかったのか?』

少し怒っているようなその声に、明子は口を閉じた。
弾んでた気持ちが、見る間に萎んでいくのが自分でも判った。

『昼も残したよな。大福もいらないって、食べてねえだろ』
「お昼は、本当にもう、お腹いっぱいで食べられなくて。おやつだって、午前中に食べてきましたもん」
『そのあとは? 夕飯、なんにも食べてないのか?』
「なんにもってわけじゃ」
『なに食ったんだよ?』

やや詰問口調の牧野に、明子はまたその口を硬く閉ざした。
お煎餅一枚などと言える雰囲気ではなかった。
こういうときの牧野は、なにを言っても怒るだけだ。
だから、なにも言えなくなった。
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