リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『もしもし。小杉?』

怒り心頭の声ではないけれど、それでも聞こえてきた声は、ご機嫌はそれほどよろしくないのことが十分に伝わってくる声だった。
だから、明子は電話に出たものの、返事もしないで黙り込んだままでいた。

『こーすーぎー。返事しろー。おーい』
「……はい」

少し苛立っている様子の牧野の命令口調に、明子は仕方がないと返事をした。
ようやく返ってきた明子の声に、牧野の少しだけ安堵したようなため息が聞こえてきた。

『お前な。頼むから、あんなふうに電話切らないでくれよ』

説教じみた口調に、明子は小さく息を吐いた。

「ご用件はなんですか。もう休みたいんです」
『電話もさ、ちゃんと出てくれよ。ああやって無視されんの、けっこう、きついんだぞ』

明子の言葉など無視したかのように、言い立てる牧野に明子は押し黙った。

『飯は? 食ったのか? 胃が痛いって言ってたよな? いつからだよ? 昨日は普通に食ってたよな』

牧野のその問いかけにもなにも答えず、小杉は口を閉ざし続けた。
なにを言ったところで、牧野は怒るだけだ。
反論すればするほど怒るに決まっている。
そう思うと、言葉がなにも出なくなった。
小杉のその沈黙に、牧野はため息をこぼした。

『小杉。なにか言ってくれよ。そうやって黙られちまうと、俺はどうしていいか、判らないんだよ』
「ご飯は朝、食べます。こんな時間に、ご飯なんか食べてるバカでごめんなさい。もう、寝ます」

もう、話しは終わりですいうように抑揚のよう声で淡々とそう言い捨てる明子に、牧野の苛立った声が飛んだ。
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