リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
髪を乾かしながら、明子はソファーに放り出したままの携帯電話を手に取った。
牧野からの電話なんか、あるわけない。
諦め半分のそんな気持ちで、着信を確認した。
そう思っていたのに、入浴している間に三回の着信があったことを知らせる履歴が、携帯電話に残っていた。
髪を乾かす手が、止まった。
でも、いつものようなメッセージは、残っていない。
明子は、しばらく、携帯電話を眺めた。
目頭が熱い。
怒鳴らないと決めたから、掛け直してきてくれたのかもしれない。
でも、その電話すらも、まるで無視しているかのように出なかった。
今さら掛け直しても、出てくれないかもしれない。
もし出てくれたとしても、また怒鳴られるかもしれない。
そんなことをクズクズを考えてしまうと、発信ボタンを押すことができなかった。
仕方なく、携帯電話を放り出す。そしてまた、手にとっては放し.放しては手に取って。
何度も、そんなことを繰り返して、肩を落として息を吐いた。


(お風呂なんか入らないで、待っていればよかった)
(なんで、諦めちゃったんだろう)
(バカ)
(あたしの、バカ)


そんな思いをクダクダと、頭の中で渦巻かせていたら、また、携帯電話が鳴った。
牧野の名前が、そこにあった。
まだ、牧野は諦めていなかったらしい。
明子の目頭が、またじんわりと熱くなってきた。
泣き声にならないようにと、明子は恐る恐る電話に出た。
無言のまま、携帯電話を耳に押し当てて、牧野の様子を窺った。

『小杉? 出てくれたな?』

少し疲れたような声で、牧野はそう明子に尋ねた。
それにも返事を返さない明子に、牧野は根気よく語り続けた。
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