リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『なに、笑ってんだよ』

漏れ聞こえたその笑いにやや尖った声でそう言う牧野は、なんとなく拗ねているようだった。
それが可愛らしく感じられ、明子はまた笑いをこぼす。

「牧野さんも、おじさんになったんだなあって。昔話をするなんて」

うふふっと笑う明子に、牧野は「うるせぇ」と忌々しそうな口調で言うけれど、声は楽しそうだった。
明子の笑い声に、牧野の機嫌もよくなったような声だった。

『なにしてたんだよ?』

やっと、電話が繋がり明子の声が聞けたことに安心したように、そんな当たり障りのない話を切り出してきた牧野に、明子は申し訳なさそうに答えた。

「……、お風呂、入ってました」
『へえ。パシャマ、どんなのだよ?』

少しだけ艶かしい声色になった牧野に「教えません」と、明子は思わず頬を膨らませた。

『ケチくせー。まあ、いいや。すぐに判るしな』

いひひと笑っている牧野に、明子の口から小さなため息が零れる。


(今さら、イヤとか言ったら、怒るかなあ)
(怒るよねえ)
(でも、行きたくないなあ)


考えるだけで、また気分が沈んでしまった。
明子のそんな変化に気付いたのか、牧野がどうしたと訝しげに尋ねてきた。

「……行かなきゃ、ダメですか?」
『お前なあ。今さらだろ』

いやなのかよと、少しだけ、不貞腐れたような声になった牧野に、明子は「だって……」と、言葉を返した。

『だって、なんだよ?』
「……お腹、ぶよぶよなんですもん」
『はあっ?!』

牧野が、聞いたこともないような素っ頓狂な声を上げて「なにを言ってんだか、バカか」と、呆れながら笑う。
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