リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
【高杉兄弟の一週間 火曜日】

「いらっしゃいませ」
ドアの開く音に、入り口に目を向けた弘明は、火曜の夜の常連客である男に、笑みを浮かべた顔でそう言った。
男は指定席になっている、カウンターの右端に座り、出されたお冷を一口飲んだ。
「今夜は、いかがいたしましょうか」
いつも、あれやこれやと細かい注文を出す男に、弘明は楽しそうにそう尋ねた。
「そうだなあ。今夜は、ちょっと変わったものにしようかなあ」
「と言いますと?」
「カクテルって、頼めるんだっけ?」
珍しいなという顔つきで、弘明は男を見た。
「簡単なものでしたら。一応、シェーカーはあります」
滅多に使いませんけどと言葉を続けた弘明に、男はコーヒーを使ったカクテルとかはあるかなと尋ねた。
「なんて言ったかな。コーヒーのリキュールをミルクで割ったヤツ」
「カルーアミルクですか?」
「そう。あれ以外で、何かコーヒーを使ったカクテルがあったら、お願いしたいな。何かあるかい?」
どうだろうと問いかけてくる男に、弘明は少しだけ考え込んでから、温かいものと冷たいもの、どちらがよろしいでしょうかと、男に確認した。
「そう。じゃ、温かいもので頼むよ」
「かしこまりました。カクテルというほどのものでは、ないかもしれませんが。少々、お待ちください」
男の注文に応じるために、弘明はまずはドリップコーヒーを淹れはじめた。
< 854 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop