リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
牧野と話をしていた間に、今夜の放送は終ってしまったので、録画したものを見ながら、夜のストレッチやら運動やらを明子は始めた。
お前がいいという牧野の言葉は、息が止まりそうなほど嬉しかった。
だからと言って、その言葉に甘えるわけにはいかないと、明子は改めて、だらけそうだった自分を戒めた。
例の仕事に挑むためにも、目に見える形でなにかを頑張れたという自信が欲しい。
そのためのダイエットでもあるのだと、自分に言い聞かせた。


(そうよ)
(うん)
(あの魚、逃がしてもったいなかったなくらいのことは、思わせたいじゃない)


牧野の言葉が、明子に魔法を掛けたようだった。
踏み出せなかった一歩を、踏み出す魔法を掛けてくれた。
でも、牧野がまったく自分の言葉を覚えていなかったのは、ある意味、衝撃だったわねと、スクワットをしながら考えた。
君島と小林に笑われた理由が、やっと判った。
本当に酒の勢いで、調子にのった挙げ句の悪のりを、自分は真に受けていたのかと思うと、情けなくなってきた。
スクワットを終えて、続けて腹筋をしようとフローリングの床に寝そべった明子は、笑う二人 を思い出し呻いた。


(パパと父さん)
(思っい切り、笑ってたわよね)
(そりゃ、笑いたくもなるわよね)
(やっぱり、あれは誤解でしたなんて言ったら……)
(間違いなく、また、笑うわよね)


自分のあまりの子どもさ加減に、赤面する思いだった。
思いきり、息を吸い込んで、吐き出して、明子は気を取り直す。


(ま、いいか)
(笑われるときは、笑われよう)
(というか、一緒に笑ってしまおう)
(子どもだった、自分を)


よしと気合いを入れて、明子は腹筋を始めた。
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