リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
(そういえば……)
(お菓子用に買っておいたリキュール)
(そっくり、残っているものがあるのよね)


それは、先日の大掃除で発掘したものだった。
今年のバレンタンイデーは、コーヒーリキュールとオレンジリキュールを使った、二種類のブラウニーを作って、職場で配った。

営業部にいたころは、バレンタインの義理チョコ配りはなしということになっていた。
女性社員のほうが圧倒的に多い職場で、お返し物を用意しなければならない男性社員の負担が大きすぎるという事情があった。
その前にいたシステム部では、逆の理由で義理チョコは配りは原則なしとなっていた。
男性社員が多すぎて、女性社員の負担が大きすぎた。
確かに、今だって、同じ課にいる女性社員は自分を含めて三人だ。
それに引き換え、男性社員は牧野以下十四人もいるのだ。割が合わないといえば、割が合わない話だった。

けれど、そうは言っても、義理ではないチョコレートを配りたい女性社員は数多いたし、そのチョコレートを受け取る男性社員は、ほぼ限定されている形で存在しており、バレンタインのチョコレート配りは、れっきとした社内行事として残っていた。
その筆頭を思い出し、明子は少し口を尖らせた。


(毎年、袋一杯、貰っているわよね)
(あの食いしん坊は)
(きっと、ほくほく顔で、食べているのよね)


そんなことを思いながら、チョコレートなんて、一度も渡したことがなかったなあと、明子は思い出したように呟いた。
義理チョコなしと言われてて、冗談めかして渡すことすらできなかった。
そんな昔のことを、思い出した。
< 858 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop