リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
自分で食べても、思いのほかよくできていることが多く、いつも多めに作っては、休みの日の自分のおやつにもしていた。
菓子類は材料のきっちりした計量が面倒そうでそれまで敬遠していたのだが、実際にやってみると、むしろオーブンレンジの調整のほうが明子には大変だった。
使っている家庭用電子レンジが原因なのか。
レシピ通りの時間や温度では、あんがい、焼き上がりが不十分だったりすることがあった。
ケーキ種を入れた型の置き方にも気をつけないと、焼きむらができたりすることもあった。
どうすれば、うまくできるのか。
週末、何度も挑戦しては自分の家の電子レンジ仕様の時間などを割り出していく。
そんなことをしているうちに、お菓子作りへの苦手意識はなくなった。
そんな試行錯誤を繰り返して完成させたレシピを見ながら菓子を作っていると、それなりにいい気分転換になったし、部屋に充満する甘い香りに幸せな気分にもなれた。

システム部に異動してからも、五月の連休がくるころまでは、よくブラウニーやリキュール漬けにしたフルーツを使ったパウンドケーキやふわふわのシフォンケーキなどを作っていたのだが、いつの間にか、そんなこともしなくなっていた。
食べたいと強請ってくれる人もなく、自分が食べるためだけに作っていることが空しくなった。
一人分なら、コンビニスイーツで十分だしねと自分に言い聞かせ、いつしか、お菓子作りをしていたことすら明子は忘れていたのだが、その名残がごっそりと発掘作業で出てきた。
すでに、封が切られていたものは捨てたが、封も切らずにそっくり残っていたものは、とりあえず、食器棚に並べてあった。


(そうか。ソーダ割りという手もあるのか)
(なるほどねー)


思いがけない使い道を知り、そのうち、ソーダ割にして飲んでしおうと、明子はその情報を脳内メモリーにインプットした。


そしてやっと、いろんなことが怒涛のように押しかけて、いろんなことが目まぐるしく変わっていった明子の長い一日が終わった。
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