リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あなたが小杉さんなの。まあ、ホントに、ふてぶてしい顔をしているわね」

いきなり、そうきますかと、明子はうんざりとして顔で二人を眺めた。
初対面の人間に、そんなことを言える人に、ふてぶてしいと言われるのは心外だわと、反論したいところを堪える。
さっさと出て行ってもらうためにも、無駄な言い争いなどしていられないと、明子はその反論を飲み込んだ。

「井上さん。そちらの方は?」
「ママよ。知らないの?」

母親のことを誰何する明子を、信じられないという顔で見つめる美咲に、ため息が止まらなかった。


(知るわけないでしょ)
(ウチの経営者でも、なんでもないんだもの)


美咲の母親は確かに株主の一人ではあるけれど、この会社でなんらかの役職について、会社経営に関わっている身ではなかったはずだ。
会社に関わっているのは、彼女の父親と兄だ。叔父や従兄弟たちだ。だから、彼らのことならば、明子とて顔もちゃんと知っている。
だが、美咲の母親は彼らとは違うのだ。
もちろん、株主は大切だ。ないがしろにするつもりはないけれど、それでも、こういってはなんだが、一従業員に過ぎない自分など、株主に対して微塵の関心も興味ももてない。
株主の女性の顔なんて、一々覚えているはずないでしょうと、美咲に対して込み上げてくる苦笑をなんとか噛み殺した。
とりあえず、そんな気持ちを飲みこんで、明子はその用向きを尋ねようとした。
けれど、その言葉を発する前に、美咲の母親が口を開いた。

「あなたね。身の程を弁えなさい」

ぴしゃりとした口調で、明子に口を挟ませるすきなど与えさせない勢いで、美咲の母親は喋り出した。
明子の目が、点になる。
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