リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「おはようさん」

明子に退出を促されても、それでも居座り続けている美咲の母親に、明子もほとほと困り果ててしまったところに小林がやってきた。
廊下から聞こえる人のざわめき声も、少しずつ増えてきた。
そこにいる美咲の母親の姿に、小林はうんざりとした顔で明子に近づいてきた。

「今日も早いな」
「おはようございます」
「雨が振りそうな天気だな」
「ですねー。昨日の予報では、晴れだったのに」
「なあ。……で? なんの用なんだ、お嬢様のママは」
「牧野さんにお話があるようですけど」

美咲の母親を顎で指してそういう小林に、明子は肩を竦めてそう答えた。

「今日は、課長は客先に直行ですと言ってるんですけど、そんなはずはないと、信じてくれなくて」

明子の眉が八の時に下がるのを見て、朝から大変だったなと小林は笑った。

「昨日、俺のところにも直行するってメールが来たよ。松山さんとこ、やっかいそうだな」

美咲にも、美咲に母親にも目もくれず、小林は席に着きながら、明子とそんな会話を交わし続ける。
その背後で、美咲の母親が眉をキリキリと吊り上げていた。

「ちょっと、あなた。昨日は随分と、美咲にひどいことを言ったようね」
「ひどいこと?」

喚く美咲の母親に、はて、俺はなにか言ったかねえと、そらっ惚けた顔で首を傾げてみせる小林に、明子は思わず苦笑した。

「我侭だの、なんだのと。随分なことを言ったそうじゃないのっ」
「事実を伝えただけですが」

小林は、至ってまじめな声で反論した。
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