リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「本気にすんなよ」
「私は本気にはしませんけど。井上さんのお母さん、井上さんと牧野さんが付き合って、本気で信じているのが怖いなって」
「はあ?!」

なんだ、そりゃ。
左の眉をくいっと上げて顔を険しくする小林に、明子は美咲が母親に吹き込んだと思われるデートの話しを説明した。

「なんで、月曜にデートできんだよ。徹夜で仕事していたやつが」
「私も、そう言ったんですけど」

娘が嘘をつくはずないって、取り合ってくれなくて。
重々しい息を吐く明子に、小林も頭を抱えるように呻いた。

「なにを考えてんだか、あのお嬢様も。そんなすぐバレる嘘をついて、どうしたいんだか」
「多分、もっと、いろんな嘘をついているんだと思います。牧野さんと電話で話しができないのは、私や小林さんが、井上さんの悪口を吹き込んで、牧野さんが怒ってしまったからだって、美咲さんは言っているみたいですし」
「で、それを信じてるんだ?」

小林のその問いかけに、明子はこくんと頷いた。

「けっこう、深刻かもしれないなあって。本気で、井上さんのお母さん、牧野さんと自分の娘はうまくいっていると、そう思い込んでいるみたいだし。ちょっとマズくないかなあって」

確かになと、小林もようやく小杉の不安を理解して、面倒だなあという顔で髪をガシガシと掻き乱した。

「娘が可愛くて、どうしねえもねえ母親だからな。作り話でもなんでも鵜呑みにしてるんだろうな」

このまま放置しといちまうと、厄介かもなと言った小林は、ぐわーっという勢いで息を吐きだした。

「な。お前ら、どうなったんだよ?」
「へ?」

小林の突然の問いかけに、明子はきょとんとした顔で小林を見た。

「お前と牧野。昨日、話し、したんだろ」
「まあ……、いろいろと」

牧野の机を拭きながらごにょごにょと口ごもる明子を、小林はからかうように、下から明子の顔を覗きこんだ。

「おい。娘。どうなった?」
「教えません。内緒です」

顔を赤くしてぷんと剥れていた明子に、小林は楽しそうな笑い声を上げた。

「おはようございます! また怪獣ママゴン、来てたんですかっ」

部屋に入るなり大きな声で騒ぐ木村に、明子は思わず笑い出した。
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