リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
木村は顔を顰めて、香里たちに背を向けるようにして座り直して、明子に話しかけてきた。

「松山係長のとこ、大変なんですかね」
「なんか、ちょっとやっかいなデータがあるって、昨日はぼやいてたわ、牧野課長」

昼食を取り始めた木村と沼田をよそに、明子は弁当箱を机に広げたものの、箸を進められずにいた。

「課長が手を焼くって、相当ですよね」
「そうねえ。まあ、前任の会社自体、相当やっかいなところみたいだしね。データも、一筋縄じゃいかないのかもね」
「そういうもの、なんですか?」
「なんか、判るな。それ」

首を傾げる木村の横で、沼田は判る判ると言うように小さく頷きながら、二人の会話に入り込んだ。

「なんか……、データ構成なんかもそうだけど、特にプログラムなんて、個性が出ますよね。一応、規約に則って作ってあっても、細かいところに作成者の個性が出ていて」
「あー。そうですね。コメント欄なんて、そういう個性っていうか、癖みたいなものよく出てますわね。きっちり書く人とか、大雑把な人とか」

いますよねーと木村が笑うと、その背後で香里がいやねえと呟いた。

「昼休みまで、お仕事の話してるなんて。信じられない」

小杉さんはホントに、お仕事が大好きなんですね。
いかにも人を見下したような笑い交じりの声でそう言う香里を、木村は鼻に皺を寄せて嫌がった。

「沼田さん。これ、食べてください」

作ってきたんですと、幸恵は持ってきた弁当箱の一つを、沼田に差し出した。
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